298 研究施設の現状と将来計画
8-4 機器センター
機器センターは,汎用機器の維持・管理・運用と,所内外の施設利用者への技術支援を主な業務としている。この他, 研究所内外の共同利用者と協力して,機器センターの機器を利用した特色ある測定装置の開発とその共同利用も行っ ている。機器センターでは化学分析機器,構造解析機器,物性測定機器,分光計測機器,および液体窒素・ヘリウム 等の寒剤供給装置と,多様な機器の維持・管理を行っている。また,機器センター所有の多くの機器を大学連携研究 設備ネットワークに公開しつつ,この事業の実務を担当している。機器センターにはセンター長(併任)のほかに9 名の専任技術職員と2名の事務支援員が配置されている。機器センターの技術職員は,分子スケールナノサイエンス センターの保有する 920.MHz.NMR や高分解能電子顕微鏡の維持管理にも参加している。
分子研の明大寺地区では平成21〜22年度に実験棟の改修が行われ,その期間は機器センターの機器も一次的な移 動を余儀なくされていた。平成23年3月の工事終了後,その他の建物も含めて全面的な部屋割りの見直しが行われた。 機器センターでも,装置の配置を抜本的に見直し,1) 寒剤供給と物性測定機器(E S R ,S QU ID )は極低温棟,2) ナノ 秒レーザー関連はレーザーセンター棟1階,3) ピコ秒レーザーシステムは実験棟地下,4) X線回折や分光計測機器は 南実験棟,という集約化を図った。特に,南実験棟 S 101 号室には,高感度蛍光分光光度計,可視紫外分光光度計, 顕微ラマン分光装置,蛍光X線分析装置を集中して配置した。今後,さらに南実験棟には所外利用者のための待合ス ペースも整備することを計画している。
本年度は,明大寺地区のヘリウム液化装置の新規設置が行われた。平成21年に旧液化装置が修復不能の故障となっ て以来,更新作業が進行していたが,平成23年10月末に設置が完了した。これまでは山手地区の液化装置のみで明 大寺地区の供給もカバーするというぎりぎりの状態が続いてきたが,ようやくにして余裕のある供給体制が確立でき る見込みとなった。また,総合研究大学院大学からの予算措置によって,旧型の 400. M H z. NM R を新品(J E OL . J NM - S C S 400)に更新した。平成23年8月に設置が終了し,順調に稼働している。本装置導入の目的は,総研大生などの 若手研究者に最新機器を自ら利用する機会を与え,先端的研究を主体的に進める一助とすることである。今後,この 方向で有効に活用されることを期待したい。さらに,設備の老朽化への対応や既設装置の高度化への要求などによっ て,できるだけ速やかな更新・導入が望まれていた機器類を,所長よりの特別な予算的措置によって年度末までに納 入できる見込みとなった。この主なものとしては,有機微量元素分析装置,S Q U I D 極低磁場オプション,E S R . C W - E ND OR オプションがある。
機器センターは,共同利用として前期・後期に分けて年二回の施設利用を受け付けている。平成23年度の所外施 設利用件数は平成24年1月末現在で 77 件である(平成22年度は 60 件)。所外施設利用者には半期に一件あたり2 泊3日の旅費を1回支給しているが,1回で目的が達成されるような実験は非常に少ない。そのため,自費で分子研 に来所する施設利用者が多い。このような施設利用の統計を昨年に引き続き「機器センターたより No..4」に掲載した。 また,施設利用者から報告された論文タイトルや雑誌名等の情報も同様に掲載している。
次年度からは,前述の 920. M H z. N M R や高分解能分析電子顕微鏡に加えて,X線光電子分光器,集束イオンビーム 加工装置,走査型電子顕微鏡,の計5装置が,機器センターに移管されることとなった。これらの機器は,ナノテク ノロジー・ネットワークプロジェクトによって導入・運営されてきたものであるが,当プロジェクトが本年度で一旦 終了することを受けて移管されるものである。この措置は,研究所全体として大規模装置を効率的に運用するという 観点から,比較的汎用性の高い装置群を集中的かつ経常的に管理する体制の構築を目指したものであり,機器センター がその任にあたるべき施設と位置付けられたことによる。このような状況に対応して,研究所外のコミュニティの方々 から広くご意見を頂く必要性がますます増加するものと考えられる。そこで,機器センターの運営委員会が現在まで
研究施設の現状と将来計画 299 は所内委員のみで構成されていたものを,所外委員も含めた構成に変更することとした。運営委員会規則の施行も行 われており,次年度から新体制で運営に関する議論を行う。当会議では,施設利用の審査を行うほか,施設利用の在 り方やセンターの将来計画について,所内外の意見を集約しつつ方向性を定める。
機器センターの今後であるが,国家全体の厳しい財務状況を考慮すると,汎用機器の配置や利用を明確な戦略のも とに進めることが不可欠となるのは言をまたない。実際,現在の所有機器の多くが10年以上前に導入されたもので 老朽化が進み,かなり高額の修理を頻繁に実施せざるを得ない状況になっている。全てを同時に更新することは予算 的な制約からほぼ不可能であり,緊急性・使用頻度を考慮して順次更新を進めるプランを策定して,分子研全体の設 備マスタープランへ組み込む必要がある。この点で,どのような機器ラインアップを維持するか再検討すべきであり, 機器の利用形態を考慮すると,次の3つのタイプに階層化することが有用と思われる。
1).比較的多数のグループ(特に研究所内)が研究を遂行していく上で不可欠な共通基盤的機器。これらの維持は,特 に人事流動の活発な分子研において各グループが類似の装置をそれぞれ新たに用意する必要がない環境作りの面 で,最重要である。所内利用者には利便性を図りつつ相応の維持費負担をお願いする必要がある。また,オペレーター として,技術職員ばかりでなく技術支援員等で対応することも検討する。一方,使用頻度や維持経費の点で負担が 大きいと判断されたものは見直しの対象とし,所内特定グループや他機関へも含めた移設などにより有効に利用し てもらうことも検討すべきである。
2).当機器センターとしての特色ある測定機器。汎用機器をベースとしつつ改良を加えることによってオリジナル性の 高いシステムを開発し,それを共同利用に供する取り組みを強化すべきである。その際,技術職員が積極的に関与 して技術力を高めることが重要である。所外の研究者の要請・提案を取り込みつつ連携して進めるとともに,所内 研究者の積極的な関与も求める。当センター内のみならず,例えば,U V S O R やレーザーセンター等と共同して取 り組むことも効果的と考えられる。所内技術職員の連携協力が技術を支えるのに不可欠である。コミュニティ全体 から提案を求める体制づくりも必要となろう。また,各種プロジェクトに適当な装置の時間貸しをすることによっ て維持費の一部を捻出するなどの工夫も必要であろう。
3).国際的な水準での先端的機器。分子科学の発展・深化を強力に推進する研究拠点としての分子研の役割を体現する 施設として,U V S O R や計算科学研究センターと同様に,機器センターも機能する必要がある。高磁場 N M R 装置 や E S R 装置は,国際的な競争力を有する先端的機器群であり,研究所全体として明確に位置付けを行い,利用・運 営体制を整備することによって,このミッションに対応すべきである。国外からの利用にも対応するため,技術職 員には国際性が求められる。2) と同様に,所外コミュニティからの要請・提案と,所内研究者の積極的関与が不可 欠である。特に,新規ユーザーの開拓は,分子科学の新領域形成へと繋がると期待されるものであり,これまで分 子研との繋がりがあまり深くはなかった研究者層・学協会との積極的な連携を模索することにも取り組む。先端的 機器は不断の性能更新が宿命であるが,全ての面でトップたることは不可能であるので,意識して差別化を行い, 分子研ならではの機器集合体を構成することに留意する。